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2014年4月よりJOCV、ベネズエラにてアグロエコツーリズム開発のサポートを。

任地の伝統的な料理を伝統的な方法で

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オフィスやステイ先がある村から少し(google earthでみると12㎞くらい)離れた場所で、住民の人たちへの説明会をした帰り、交通手段がなくて、歩いても帰れると言ったらあほかと言われ、その場所の近くに住む同僚の家に泊めてもらうことにした日のこと。

メインの道路から脇道に入り、坂をぐんぐんのぼって疲れはててきたところで、ぐあっと視界が開けて、木の枠組みと粘土で作られた伝統的な家々が並ぶ場所に出た。

「こっちだよ」と案内されるまま、豚や鶏が歩いている脇をすり抜けて、さらに細い道を入っていくと、彼女の家があった。

 

「とても古いんだけどね」と、申し訳なさそうに話す同僚とは裏腹に、私は疲れもどこかへ一気に興奮してしまった。ずっと、この粘土でつくられた家に入ってみたかった。

入って正面は居間、右手に寝室が二つあり、正面奥も寝室、そして左手にはキッチン。そのキッチンがとてもとても素敵だった。

Fogonという、この土地の伝統的なキッチンで、たき火の上に丸い鉄板を置き、Arepaというとうもろこしの粉でつくるパンケーキのような食事をつくる。始めて囲炉裏を囲んでごはんを食べた時と同じくらいの感動だろうか。立ち位置的にも日本の囲炉裏のようなものの気もする。

また、ここではArepa用のとうもろこしの粉は精製されたものを買う家庭がほとんどなのだが、ここファルコン州の山間部では、とうもろこしの粉を挽いてつくるArepa peladaという食べ物が伝統料理として知られている。同僚の家では同僚のお母さんがまさにとうもろこしの粉を挽いて、Fogonの直火で焼いて、Arepa peladaを作っていた。

そのArepaが本当においしくて、ベネズエラに来て半年、ほぼ毎日Arepaを食べていたけれど、今まででいちばん美味しいArepaのような気がして、なんだか泣きそうになってしまった。

 

伝統的な家というのはしかしながらほかの家に比べても、経済的には貧しい家庭が多い。シャワーは外で水浴び、トイレも家の外に出て5mくらいの場所にあり、夜や雨の時はぬかるみを歩くのも大変なので、寝る前にバケツを渡されて、用を足したかったらここで足してね、と言われた。屋根はトタンで床は土のまま、雨が降ると雨漏りで床に穴ぼこができる。粘土の壁は隙間も多く、蚊が家の中にもたくさんいて、扇風機を使えるときはいいけれど、ここは停電もしょっちゅう、もし泊まった日に扇風機がなかったらと思うとちょっと大変だ。

 

配属先では伝統文化の保存のために、アグロエコツーリズムと銘打って、伝統文化の保護を人々に説いて回っていて、同僚もその重要性をいつも熱っぽく住民に語る。

しかしながらその夜彼女が、もうすぐコンクリート建ての家を建てて、立派なソファや家具を置くんだ、と嬉しそうに話してくれたことが、なんだかとても複雑だった。

 

住民への説明会の時には、第一に伝統文化の保護、第二に自分たちのアイデンティティの確立、第三に環境保全、第四に収入増加と生活改善、という風に話す彼女に、その矛盾を問い詰めるようなことはできず、何も言えなかった。

 

説明会でも、アグロエコツーリズムの概念やイメージは伝わっても、なかなか自分たちがアクティビティやサービスを提供するという意識は生まれていないように感じられる。なんかもう実際に始めちゃって見せた方がいい気もする。

 

その夜は、雨の音と、まだ夜中から鳴く鶏の声の中、興奮と、どうすればいいのかをずっと考えていて、一晩中眠れなかった。

とにもかくにも、とても素敵な体験が出来た日になった。